岐阜大学整形外科の河村真吾と申します。平成29年に日本股関節研究振興財団より「先天性股関節脱臼の病態解析による関節メカニカルストレス応答機構の分子生物学的解析」をテーマに研究助成を頂きました。私たちは発育性股関節形成不全症(DDH)において,股関節の脱臼に伴って関節軟骨が変性するメカニズムを解析しました。その結果,股関節の軟骨の形成と維持には動的負荷が必要であること,そして動的負荷を失った軟骨は早期に変性することを明らかにしました。そして,脱臼後の早期に軟骨変性をもたらす原因遺伝子の1つとして“ペリオスチン”を同定しました。本研究の結果を,下記の論文で発表させて頂きました。
実は,私は股関節外科ではなく,手外科を専門として日々診療にあたっており,なかでも手の変形性関節症の治療に力を入れております。特に,母指CM関節症においては保存的治療(関節注射や装具治療)から手術治療(骨切り術,関節固定術,関節形成術,関節鏡視下手術など)を,患者さんの病態,生活スタイル,希望に応じながら行っております。さて,先日の出来事ですが,私が医師3年目に大腿骨頚部骨折に対して人工骨頭置換術を行った患者様が定期受診をされました。術後15年が経過し,92歳になられましたが,独歩可能であり,自宅で無事に過ごされておりました。拙い手術であったと思いますが,レントゲンではインプラントのゆるみや破綻は全く認めませんでした。股関節手術の恩恵の大きさと良好な長期成績を実感すると共に,改めて股関節手術における技術開発の成熟度に感銘を受けました。
本業であります手外科領域でも,股関節における人工関節置換術のような20-30年という長期にわたる良好な治療成績を提供できるようにするべく,より良い治療方法の探求や手術手技の改良に取り組むと共に,患者さんとの長期的なお付き合いを通じて,医学発展に貢献できれば幸いです。今後とも皆様のご指導・ご支援を賜りますよう,宜しくお願い申し上げます。
Reduced dynamic loads due to hip dislocation induce acetabular cartilage degeneration by IL-6 and MMP3 via the STAT3/periostin/NF-κB axis. Nakamura Y, Saitou M, Komura S, Matsumoto K, Ogawa H, Miyagawa T, Saitou T, Imamura T, Imai Y, Takayanagi H, Akiyama H. Sci Rep. 2022 Jul 16;12(1):12207.
*岐阜大学整形外科 秋山治彦教授の指導の下,中村寛先生が主研究者(筆頭著者)として本研究を実施しました.