間島 直彦
愛媛大学医学部整形外科 地域医療再生学講座 教授
高齢者に生じる骨折は、骨量が病的に減少し骨強度が弱くなる骨粗鬆症が原因であり、屋内転倒などの軽微な外傷で生じるために骨脆弱性骨折と呼ばれます。骨脆弱性骨折のひとつである大腿骨近位部骨折が生じた場合、30-60%の患者が日常生活に支障をきたすようになり、1年後の死亡率も約10%と生命予後も不良です。また、反対側の大腿骨近位部骨折など別の部位に二次骨折が生じる症例が多いことも報告されています。日本整形外科学会の2018年の全国調査では大腿骨近位部骨折が現在でも増加傾向にあり大きな問題となっています。適切な骨粗鬆症治療が骨折発生を減少させることはわかっていますが、十分に行えていないのが現状です。
これらに対応する手段としてリエゾンサービスがあります。リエゾンとは「連絡係」と訳されるフランス語で、診療におけるコーディネーターの役割を指します。骨折リエゾンサービス(Fracture Liaison Service:FLS)は、医師、看護師、理学療法士、放射線技師、薬剤師、管理栄養士、社会福祉士、介護福祉士などの多職種のコーディネーターがチームを組み、入院された患者さんの治療について連携し、骨折だけではなく、骨粗鬆症の評価と治療を積極的に行うとともに退院後も3年間治療継続状況を追跡してフォローする、という取り組みです。すでに英国、豪州、カナダではFLSの活動によって、二次骨折の発生率が低下することで、トータルの医療費も少なくて済むことなどが報告されています。わが国でも2014年から日本骨粗鬆症学会によって骨粗鬆症リエゾンサービス(OLS®)が始まりました。OLS®は、骨折患者の二次骨折予防だけではなく、地域における一次骨折予防もその活動に含めるところがFLSと異なります。OLS®活動のコーディネーターである「骨粗鬆症マネージャー」は現在までに3600名が認定され全国で活躍しています。
私が勤務している関連病院でも、2015年から大腿骨近位部骨折患者に対してFLS活動を開始しました。活 動の開始前は、骨粗鬆症治療率が入院時12%、退院時33%、1年後には21%でした。リエゾンチームが、入院時から3年間介入するようになり、骨粗鬆症治療率は入院時15%から、退院時には85%、1年後は72%と改善し、3年目も66%と維持されていました。3年経過すると約30-40%の患者さんと連絡が取れなくなる問題はありますが、3年死亡率は12%、3年間の二次骨折発生率は7%でした。
このような高齢者の骨脆弱性骨折を予防しようとする試みが全国各地で行われています。超高齢社会である日本では、このような健康寿命延伸の活動を現場の医療スタッフの頑張りに任せるのではなく、是非医療政策として国家レベルで取り組んで頂きたいと思います。