脆弱性骨盤骨骨折(fragility fractures of the pelvis;FFP)は、骨粗鬆症による骨強度(骨密度・骨質)の低下が原因となり、軽微な外力(立位からの転倒、またはそれ以下の外力(歩行など)で生じる骨盤の骨折で、本邦でも超高齢社会を背景に増加傾向にあります。超高齢社会だけでなく、交通機関の発達など便利になった社会や恵まれた医療体制を含め、私たちの日常生活の変化が運動量の減少や転倒リスクの増大に大きくかかわっているような気がしてなりません。本疾患は、症状が軽度なことや(整形外科医の中でも)あまり認知されていないこともあり、見逃されやすい骨折です。転倒などでケガをしていないにもかかわらず生じることも少なくなく、最初は腰痛、殿部痛、坐骨神経痛や大腿骨近位部骨折と間違われることがあります。診断は単純X線検査で行いますが、最初はX線検査では骨折が判明せずCTやMRIではじめてわかる不顕性骨折という状態の場合があります。痛みが続く場合は、不顕性骨折である場合がありますので、整形外科を受診してください。骨盤は中に内臓や血管を含んでいますので、骨折により血管損傷を伴う場合、命にかかわることがあります。従いまして、骨折により明らかな不安定性を認める場合は全身状態を考慮の上、手術的治療を選択するのが一般的です。骨折の転位(ズレ)をほとんど認めない場合は、保存療法を選択する場合がありますが、ベッド上の安静期間が長期になることによるせん妄、肺炎、尿路感染や褥瘡(床ずれ)が生じることがあります。従って、早期離床ならびに骨折部を安定化させるために手術を選択する場合もあります。最近では、骨形成を促す薬剤の使用が可能になり福音をもたらしています。
ではなぜ脆弱性骨盤骨骨折が増えているのでしょうか。それは最も重要な要因である骨粗鬆症が増加しているからだと考えられます。骨粗鬆症の原因は、加齢や閉経が原因の原発性骨粗鬆症と病気(関節リウマチ、糖尿病、腎疾患、動脈硬化など)や薬(ステロイド薬など)が原因となる続発性骨粗鬆症があります。超高齢社会になり平均寿命が延びていることや病気に罹患していても長生きしている方が多いことなどが関係していると考えられます。また生活習慣として、カルシウムやビタミンD摂取不足、運動不足や無理なダイエット、喫煙や過度な飲酒が影響していると思われます。今後ますます超高齢社会はすすむため本脆弱性骨盤骨骨折も増加の一途をたどると考えられます。そのため、是非規則正しい生活習慣や定期的な骨密度(骨の量)測定を含めたロコモティブシンドローム検診をすることで、「健やかに老いる」を目指しましょう。