本間 生夫
昭和大学名誉教授
特定非営利活動法人「安らぎ呼吸プロジェクト」理事長
普段気にしていませんが、地球上に住んでいる私たちは強力な重力を体に受け、その重力に抵抗しながら活動しています。それを可能にしているのは重力に耐えうる構造を持つ骨格であり、骨格を動かすための筋肉であり、その筋肉からの情報を受け、筋肉を動かす神経である。しかし悲しいかな、これらの器官は一生涯強く、最適な状態で働くわけではない。20歳代をピークとして老化が始まり、スポーツ選手でさえ30歳代で引退を考える。ホルモンバランスも崩れ、骨密度は下がり始める。筋肉は加齢により20-30%も小さくなり、筋線維の数は80歳代では20歳代に比べ10-40%にも減少する。感覚器の感度は悪くなり、その情報を伝える神経も衰えてくる。ふらついたり、大したことのない障害物にもつまずき、転びやすくなる。このような老化に伴い衰えてくる骨格系や神経・筋肉系を如何にカバーし安定して動ける体を作っていくか、高齢化社会での最大の課題でもある。
老化と共に姿勢は悪くなり、いわゆる猫背になってくる。最近では若い人でもスマホやパソコンに長い時間集中しているために姿勢が悪くなり、2100年の人間の姿は猫背で首が前に突き出てしまう、という衝撃的なレポートまで出ている。精神的ストレスが加わるとさらに体は前かがみになってしまう。体幹は体の幹と書かれている通り、姿勢を保つうえで最も大切な部位であり、体幹は重力に対抗して姿勢を保つための筋肉(抗重力筋)でおおわれている。体幹の筋肉を鍛え、常に最適な状態にしておくことが必要である。
体幹の姿勢を保つ筋肉が呼吸のための筋肉でもあることを知っている人は少ないかもしれない。胸を広げたり縮めたりする筋肉は20種類以上存在しているが、これらを総称して呼吸筋と呼んでいる。呼吸筋は2種類に分類され、収縮すると胸が広がる筋肉は吸息筋、胸が縮む筋肉を呼息筋と呼んでいる。体幹の背骨(脊柱)を取り巻く筋肉は姿勢を保つ筋肉として強く働いている。その中でも背中側(背面)にある脊柱起立筋という背骨をまっすぐにしようとする筋肉は姿勢を保つ点で最も大切な筋肉である。この脊柱起立筋は吸息筋として働いており、空気をたくさん吸い込むためにも、また呼息筋が効率よく働き、空気をたくさん吐き出すためにも大切な姿勢を保つ筋肉である。肺機能の衰えを防ぐために、体幹の筋肉を鍛え、姿勢を保つことが高齢化に向かって必要なことである。