関節置換手術をされた方が、身体活動量を回復させることにより筋力などの運動機能を改善するケースは多く見られます。この機能改善は筋肉の量が増えることによって主に説明することができると考えられます。一方、我々の筋肉は、それのみでは力を発揮することはできず、必ずそれを支配する「運動神経」の指令によって力を発揮することができます。
運動神経と聞くと「運動神経が良い、悪い」といった抽象的な表現を思い浮かべる方が多いと思いますが、私たちの身体の中には運動神経が実際に存在し、筋肉を動かすためには不可欠な存在となっています。この「運動神経の働き」は、加齢にともなって変化します。また、「運動神経の数」も加齢にともなって減少することが知られています。「筋肉の量」や「運動神経の働き」は、筋力トレーニングなどの運動によって、年齢に関係なく、元の状態に戻せることが分かっていますが、「運動神経の数」は一度減ってしまうと、元に戻すことは難しいとされています。特に50歳以降は「運動神経の数」が減少することが知られており、運動不足はそれを加速させることが推測されます。一方、マスターズランナーのようなしっかりとした運動を継続しているシニアの方では、若い人たちと運動神経の数が変わらないことも報告されています。このことは、運動習慣をできるだけ早く獲得することの重要性を示し、置換手術前などの運動不足に陥る期間はできるだけ短い方が良いことも示唆しています。
では、どういった運動が必要か?それは「きつい運動」です。筋肉を構成する筋線維には、弱い力しか出せないけど疲れにくい「遅筋線維」と強い力を出せるけども疲れやすい「速筋線維」が存在します。運動神経にも「遅筋線維」と「速筋線維」を支配するものに分かれています。加齢にともなって減ってしまうのは、「速筋線維」とそれを支配する運動神経です。理由は簡単で、日常生活で使わないからです。通常の日常生活では経験しない「きつい運動」をすることは、これら筋線維と運動神経を維持する直接的な方法だと言えます。できれば、筋トレ、そうでなくても、例えば、階段昇降や買い物の荷物運びでも良いです。これらを避けずに、積極的にやってください。いつか自分に返ってきます。
筋肉を構成する筋線維には、弱い力しか出せないけど疲れにくい「遅筋線維」と強い力を出せるけども疲れやすい「速筋線維」が存在します。その間の特徴を持つ筋線維もあり、それらが目的に合わせて使われます。例えば、脚の筋肉において、歩いている時には遅筋線維が使われ、全力でダッシュする時には速筋線維が使われると考えられます。加齢にともなって筋肉の量が減っていくことは御存じかと思いますが、主に「速筋線維」が細くなっていくことが原因と言われています。理由は簡単で、日常生活で使わないからです。また、筋線維と運動神経はペアを組んでおり、「遅筋線維」と「速筋線維」を支配する運動神経は別々です。日常生活で使わないものが無くなっていく、と考えると、「速筋線維」を支配する運動神経が加齢にともなって、減っていくことは容易に想像できます。
シニア世代の方々が実感する筋力や運動能力の衰えは、筋肉が減っていくことが主な原因と考えられてきました。もちろん、筋肉の量は、その人が出せる力を大きく左右します。ただし、加齢にともなう筋力の低下は、筋肉量の減少に比べて、4~5倍の速さで進むことが知られています。つまり、見た目でわかる筋肉の変化よりも、もっと大きく筋力や運動能力は衰えてしまっているわけです。では、何がシニア世代の筋力や運動能力を大きく低下させているのでしょうか?
筋肉は、そのもの自体が自ら動くことはできません。脳から発せられた信号が、脊髄から伸びる運動神経を伝って筋肉に到達することで、筋肉は動くことができます。運動神経と聞くと「運動神経が良い、悪い」といった抽象的な表現を思い浮かべる方が多いと思いますが、私たちの身体の中には運動神経が実際に存在し、筋肉を動かすためには不可欠な存在となっています。この運動神経の働きは、加齢にともなって変化します。1つの筋肉は数百本の運動神経(腕や脚などの大きな筋肉)に支配されていますが、運動神経の数が50歳以降、1年に約2%ずつ減少していくと言われています。この「運動神経」が先ほどの問いの答えであり、超高齢社会を迎えた我が国を救う1つのカギになると筆者は信じています。
筋肉や筋力はシニア世代の方々であっても、適切な運動トレーニングを実施すれば、改善できることが知られています。近年、私たちの研究室では、筋力トレーニングを実施することで、シニア世代が持つ特有の「運動神経の"働き"」のパターンを、若者と同じようなパターンに戻せることを明らかにしました。一方で、消失した運動神経を再び取り戻すことは難しいため、いくら運動を行っても「運動神経の"数"」を増やすことはできません。
カナダの研究グループが2010年に発表した研究では、高齢者(平均67歳)における運動神経の数は若齢者(平均27歳)に比べて40%も少なかったが、マスターズ競技者(平均64歳)の運動神経の数は若齢者と同等であった、と報告しています。加齢にともなう運動神経の数の減少は、普段の生活では使うことが無くなった運動神経がその役目を終えて消失することが原因であると考えられています。特に強い力を出すときに使われる運動神経が消失しやすいとされています。マスターズ競技者では、日々の鍛錬の中で、強い力を発揮する時に使われる運動神経(同世代のシニアの方々が使わない運動神経)を使っているため、運動神経の数が維持できていると考えられています。先ほども触れた通り、運動神経の数を増やすことは難しいため、シニアになる前、いわゆるプレシニア、の時期から運動習慣をつけ、少し「えらい」運動を実施することが「運動神経の数を残す」ことに繋がり、その後の筋力や運動機能を維持するのに役立つでしょう。