内藤 正俊
医療法人社団 高邦会 福岡中央病院 病院長
整形外科の対象疾患は身体活動に関わる骨、筋肉、関節などから成る運動器の障害ですが、コロナ禍は老若男女の運動器にも影響を及ぼしているようです。不要・不急の外出の自粛、オンラインでの在宅勤務の推奨、運動施設の利用制限などにより、日常生活での身体活動以外のスポーツが制限されています。このため、健康だけではなく、運動器の維持や強化に不可欠な、日常生活以外の活発な運動を週2回以上、1回30分以上習慣的に続けることに支障があるようです。
コロナ禍により運動器の早期治療の機会が減少しているのではと心配しています。病院内でのクラスターの発生の報道に伴って院内感染の恐怖が増幅され、入院だけでなく、来院も手控えられているようです。変形性関節症と骨粗鬆症は外来で多い疾患ですが、両疾患とも徐々に進行し、放置されると耐えられない痛み、骨折、変形を起こし、寝たきりの原因となります。変形性関節症では病期に応じたリハビリテーションや矯正装具療法などにより進行を遅らせることができます。骨粗鬆症では骨を強くする運動や適正なカルシウム摂取などの生活指導と各種の薬物療法により骨量の増加と骨折の予防が可能になっています。両疾患とも病態は各人各様ですので、専門医の判断による治療が最も効果的です。
整形外科の手術的治療にも延期などの問題が生じています。コロナ患者の急増や即応病床の設置などにより外科系入院病床数が減少しています。自らの感染や濃厚接触者となり休職しなければならなくなった医療従事者も増加しています。このため予定入院・予定手術の中で延期可能なものは先送りしなければならない事態が発生しており、緊急を要する骨盤骨折などの重篤な外傷以外の整形外科手術はその対象になっています。変形性股関節症(OA)に対する人工股関節置換術(THA)と骨切り術も待機手術として延期の対象になっています。末期OAに対する人工股関節置換術は、手術の延期が術後成績に殆ど影響を及ぼさないため、両側同時THAなど臨機応変に手術日を決めることができます(写真)。一方、初期OAに対して行われる骨切り術では、手術による正常に近い形態と機能の回復のためには関節軟骨が十分に残存していることが必須条件です。コロナ禍により手術の延期が繰り返され、関節軟骨の摩耗が進み、骨切り術の時機を逸する患者さんも出てくるのではないかと危惧しています