日本人の平均寿命は最近７０年間で実に３０年も長くなっており、人生５０年の時代から人生８０年の時代に移行しています。寿命が延びることは喜ばしい限りですが、一方で､加齢に伴う骨・関節疾患が急増し、大きな社会問題になっています。その１つが、骨粗鬆症に伴う大腿骨近位部骨折の急増です。
　現在、骨粗鬆症患者は全国で約１３００万人もいるといわれています。骨粗鬆症では骨がもろくなるので、軽い衝撃でも骨折しやすくなります。特に女性は閉経後、急激に骨量が減少するために骨粗鬆症の患者数が多く、男性の３倍以上にも及びます。骨粗鬆症による骨折が最も起こりやすいのは脊椎（背骨）、次いで大腿骨近位部(脚の付け根)であり、いずれもQOL低下や寝たきり、ひいては生命予後不良の原因となります。閉経後は、骨粗鬆症健診、医療機関における骨密度測定をもとに骨粗鬆症、またはその予備軍ではないかチェックしてもらい、予備軍であれば食事指導や運動指導を、骨粗鬆症であれば骨折リスクを低下させるために骨粗鬆症治療薬の処方を受けるようにしましょう。また、大腿骨近位部骨折の直接の原因の実に２／３は屋内における転倒です。日頃から転倒予防のために、日本整形外科学会が推奨している開眼片脚立ちやスクワットなどのロコモーショントレーニングを実践されることをお勧めします。
　いったん大腿骨近位部骨折が発生すると、股関節部の激痛と不安定性のため動けなくなるので手術（骨接合術）が必要です。骨接合術を行っても骨癒合が得られにくい大腿骨頸部骨折に対しては、人工骨頭置換術が行われます。手術を行えば、多くの場合、術前同様の歩行能力を回復できますが、なかには全身合併症のために手術ができず、寝たきりとなって不幸な転帰をたどる症例もあります。
　骨粗鬆症では、一度骨折が発生すると、また別の部位が骨折する「骨折の連鎖」が問題です。著しいQOL低下や寝たきりの原因となり、生命に危険が及ぶ骨折の連鎖を予防するためには、骨折の治療だけでなく、骨折リスク低下のエビデンスのある薬剤の投与が必要です。かかりつけの先生とよく相談して、定期的に採血や骨密度測定を行い、再び骨折しないよう治療を継続していくことが大切です。