中島 義雄
帝人ナカシマメディカル株式会社 代表取締役会長
人工関節手術は20世紀で最も成功した手術の一つといわれ、多くの患者に人工関節置換術が行われている。この人工関節手術は、1960年初頭にSir John Chanleyが人工股関節手術を始めてから広がり、手術手技の発達のみならず、インプラントも大きく改良されてきた。現在では日本国内において、年間人工股関節が約75,000症例、人工骨頭が約81,000症例、人工関節全体で約265,000症例(22年度版矢野経済研究所レポートより)が報告されるに至っている。
人工関節は主に金属材料(チタン合金やコバルトクロム合金)、セラミック、摺動部材の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)から構成されている。耐摩耗性が高いUHMWEPではあるが、人体に長期間埋植されると、摩耗粉が生じる。その摩耗粉を貪食したマクロファージにより様々なサイトカインが産生され、破骨細胞が活性化される。この様に、摩耗粉は人工関節のloosening に深く関係しており、耐摩耗性の向上による摩耗粉の削減は、人工関節の寿命の延伸に大きな効果があると言える。1970年から大西先生(当時、国立大阪南病院整形外科)らが、100Mradのガンマ線照射によるクロスリンク処理を行ったUHMWPEの臨床使用を開始し、クロスリンク処理が摩耗粉の減少に大きな効果があることを示した。大西先生らが開発したUHMWPEへのクロスリンク処理は、現在一般的に行われる処理となっており、人工関節の長寿命化に大きく貢献している。
上述のクロスリンク処理によって耐摩耗性を向上させることに成功したが、UHMWPEの体内での酸化劣化を防ぐことはできない課題があった。そこで、体内での酸化劣化の課題解決をするために、弊社では抗酸化剤(ビタミンE)を混入させることで、酸化しにくいUHMWPEを富田先生(当時、京都大学工学系研究科)らと開発した。さらに、科学技術振興機構(JST)独創的シーズ展開事業の補助を受けて、2004年から千葉大学を中心に臨床治験を開始し、2010年からビタミンE添加のUHMWPEとして一般販売を始めた。こうした抗酸化剤をUHMWPEに添加する製法は現在一般的になっており、クロスリンク処理と同様に人工関節の長寿命化に貢献していると自負している。
上記以外でも日本の研究者やメーカは、人工関節の様々な分野で新たな研究を行い、人工関節の改良に大きく貢献してきた。これからも、人工関節置換術が抱える課題を一つ一つ解決して、患者様のQOL向上に寄与すると同時に、結果として国産メーカのシェア拡大を目指したい。