近年、超音波診断装置(エコー)が器械の空間分解能・時間分解能の向上、併せて携帯性、操作性の進歩を背景に整形外科領域で急速に普及しています。現在、運動器疾患に対するエコー検査では、骨や軟骨，靭帯などほとんど全ての構成体が観察可能で、非侵襲的にかつリアルタイムで運動器の動態を評価することが可能になっています。
　股関節は，寛骨臼、大腿骨で構成される骨性組織、また股関節周囲筋、関節包などの軟部組織で構成されています。本邦における股関節疾患患者さんには、寛骨臼の被覆が浅い発育性股関節形成不全 (DDH)を有する頻度が高いことが知られており、DDHを基盤とした股関節不安定性に起因する関節症の進展が問題となります。股関節診療においては、骨性/軟部組織に生じる種々の股関節痛の診断や、関節不安定性を正確に評価する事が重要になります。
　現在の診療は、問診と身体所見などの理学所見に加え、レントゲンやCT/MRI などの画像検査から診断・治療を決定することが一般的ですが、日常診療において従来の評価法では診断が困難な股関節痛を訴える患者さんや股関節疾患に悩まされる機会が多く、日々の診療の悩みの種となっています。そこで我々は、従来の評価法と併せエコーを活用し、疼痛の評価、股関節の動態評価、また治療を行うことで股関節疾患の診断・治療の向上を図っています。これまで、変形性股関節症として治療を受けてこられた患者さんの中に腸腰筋、大腿直筋腱などの筋・腱の炎症性疾患が存在し股関節痛の原因と判明した症例や、画像上は一見DDHなどの骨形態異常がないように見える患者さんの中に、実は股関節不安定性があり股関節痛の原因となっていたなどの診断に繋げることが可能となっています。(図1) また、併せてエコーを用いて注射を行うことで、これまで透視や治療者の感覚によってのみ行ってきた手技と比較するとより正確に簡便に注射が可能であり、キシロカインテストなどを行う際にはより正確な診断に繋げることが可能となっています。(図2)
　股関節診療においては、エコーはまだまだ一般的ではありませんが、診断から治療に至るまで臨床的な有用性は高く、我々臨床家にとってのパラダイムシフトであると感じています。従来の画像検査と併せてエコーを活用することで、病態の解明、また治療に繋げることができる大きな可能性を秘めており、今後も研究を進め患者さんのより良い治療に繋げていきたいと考えています。