第40回 Hip Joint コラム

医者と弁護士
谷 眞人
弁護士、財団 評議員
 伊丹康人先生とのご縁で日本股関節研究振興財団の評議員をさせていただいている弁護士の谷眞人といいます。来年で弁護士生活30年を迎えます。私は股関節に関しては素人ですが、今日は弁護士の立場から医者と弁護士の仕事について、感じていることをお話したいと思います。

  世の中にプロフェッションという言葉があります。が、1870年生まれのアメリカの法学者であるロスコー・パウンドという学者が、世の中の3大プロフェッションに当たる職業として、医者と牧師と弁護士を挙げ、その共通の特質として、専門性、倫理性、そして組織性をあげています。プロフェッションの語源のプロフェス(profess)は、「神の前で告白する、誓う」という意味だそうですが、医者、牧師、弁護士がいずれもいずれも「人のために尽くすよう天地神明に誓うことが求められる専門職」であることから、これらの職業を三大プロフェッションというのだそうです。ところが、この語源の解釈には実はもう一つ説があります。それは、医者も牧師も弁護士もいずれも患者、信者、依頼者から秘密を告白される(profess)される職業であるから、プロフェッションと言われるというものです。私としては、後者の解釈の方がしっくりきます。お医者様もそうだと思いますが、我々弁護士も日々の仕事の中で、実に様々な秘密を打ち明けられます。おそらく私生活上で一番親しいと思われる、親や配偶者、親友も知らないような秘密を、弁護士には包み隠さず伝えて、相談をすることになります。本当にそんなことをしてしまったのか、そんなことがあるのか、と驚くような場合もあります。

  そのため、弁護士倫理上、世界のどの国の倫理規定を見ても、必ず明記されている弁護士の義務の一つが守秘義務です。日本でも弁護士法23条や、倫理を定めた弁護士職務基本規程23条にも、この守秘義務が明記されています。世界の弁護士に共通する二大倫理規範というのがあって、そのうちの一つがこの守秘義務です。ちなみにもう一つの義務は利益相反行為の禁止とされています。弁護士はどこまで依頼者の味方でなければならず、二君に仕えることがあってはいけないのです。

  さて、私が弁護士になってみて感じたもう一つのことは、弁護士の仕事が人間を相手にしたカウンセラー的な面が非常に強いという点です。比喩的に言えば、必要とされる能力のうち、法律知識は3割、残りの7割の能力は、むしろ聞き取る力、言葉の端々から本当は何を言いたいのかを探し出す力、そしてこの人に平穏な生活を取り戻して貰うには何が一番適切かという処方箋を出す力だと感じています。長く弁護士をしていると、表面上の言葉が本心を述べているのではないと見抜く力もついてきますし、訴訟に勝つことが一番の解決ではないことも多々あります。このような考え方は、きっとお医者様にも共通する部分があるのではないかと勝手に考えています。 日々の仕事は決して楽ではありませんが、依頼者の表情が、事務所の来たときよりも帰るときに、少しでも和らいでいたら、それが弁護士としての無上の喜びと思い、毎日仕事場に向かうことにしています。

Hip Joint コラム履歴

第101回 「原因の分からない股関節痛、急速破壊型股関節症の始まりかもしれません」

第100回 「新・繁文縟礼(はんぶんじょくれい)時代」

第99回 「当財団の股関節海外研修助成について」

第98回 「いつの日か花開く研究」

第97回 「人工股関節置換術に想う」

第96回 「変形性股関節症の保存療法」

第95回 「大腿骨近位部骨折のリスクを下げるために出来ること」

第94回 「手外科医として,整形外科研究者として股関節外科から学ぶ」

第93回 「人工股関節置換術の進歩と課題:第96回日本整形外科学会学術総会から」

第92回 「股関節を丈夫にして健康寿命を延ばしましょう!」

第91回 「骨粗鬆症患者の骨折の危険性について」

第90回 「手外科医からみた股関節外科」

第89回 「エコー診断・治療のすすめ」

第88回 「人工関節材料の開発における日本の貢献」

第87回 「赤ちゃんの股関節大丈夫ですか?」

第86回 「人工股関節 『脱臼には注意しましょう。』」

第85回 「ロボットリハビリテーション 股関節疾患への応用」

第84回 「お笑い番組での人工股関節の話題」

第83回 「人工股関節の寿命を長期化する取り組み」

第82回 「人工関節インプラントの国産化の必要性」

第81回 「手術はレントゲン写真ではなくその人を!」

第80回 「骨粗鬆症治療中に注意が必要な骨折−大腿骨非定型骨折−」

第79回 「非対面型コミュニケーションの課題」

第78回 「我が国に寛骨臼形成不全が多いのは、何故?」

第77回 「超高齢社会における股関節疾患の未来」

第76回 「コロナ禍の整形外科」

第75回 「2022年新年の思い」

第74回 「人はなぜやせられないのか?」

第73回 「脆弱性骨盤骨骨折に思う」

第72回 「骨粗鬆症による大腿骨近位部骨折の予防と治療」

第71回 股関節疾患に関する基礎研究

第70回 「日本人工関節登録制度をご存知ですか?」

第69回 子どもや孫が「家族歴」が理由で
股関節健診にひっかかった!!時に読む記事

第68回 「姿勢と呼吸」

第67回 筋肉が衰えればすべてが衰える

第66回 人工股関節全置換術術後でも足の爪が
自分で切られない患者様に対する自助具を開発しました!

第65回 人工股関節は生身の股関節より性能が良い!

第64回 2021年新年の展望

第63回 股関節と尿失禁(尿漏れ)の意外な関係

第62回 大切な「何か」

第61回 大腿骨近位部骨折と骨折リエゾンサービス

第60回 私の股関節と剣道 第2報 2週間の入院経験

第59回 コロナパンデミックとスペイン風邪

第58回 「ヒップの摩耗の問題:本当にあった話です」

第57回 赤ちゃんの股関節を守るため、生まれてすぐからの予防を!

第56回 コロナ、ステイホームで思うこと

第55回 高齢者の骨粗鬆症と大腿骨頸部骨折

第54回 変形性股関節症に対する温泉療法について

第53回 国内におけるカダバートレーニングの現状

第52回 2020年(令和2年)新春明けましておめでとうございます。

第51回 「ヒップペイン」

第50回 人工股関節の術後合併症

第49回 『きょうよう』・『きょういく』と股関節

第48回 股関節の痛みとロコモティブシンドローム

第47回 股関節の神秘

第46回 生き方が役に出る

第45回 変形性股関節症に対する骨切り術とテクノロジー

第44回 変形性股関節症「寛骨臼(臼蓋)形成不全に起因する

第43回 3Dプリンターの医療機器への応用

第42回 中間管理職から見た股関節手術を取り巻く教育の現状

第41回 Wolffの法則

第40回 医者と弁護士

第39回 骨の銀行があることを知っていますか?

第38回 悠々閑々外来の妙

第37回 股関節手術でAIは整形外科医を超えられるか?

第36回 ステロイド治療に伴う大腿骨頭壊死の発生予防を目指して

第35回 股関節手術と今後の健康維持

第34回 財団30周年に寄せて

第33回 大腿骨近位部骨折(足の付け根の骨折)は早く治療を!

第32回 腰痛は人間の宿命です-腰椎・骨盤・股関節の連携-

第31回 股関節の手術と健康寿命

第30回 弘法は筆を選ばず?

第29回 大腿骨近位部骨折が増加しています-50歳を超えたら骨折予防-

第28回 呼吸を整え体を動かそう

第27回 人工関節の寿命は予測できるの?

第26回 人工関節手術後の早期社会復帰と保険医療制度の疲弊

第25回 赤ちゃんの股関節脱臼に思う

第24回 新しい高齢者像を求めて、メディカルフィットネス 医学体操の活動

第23回 指定難病の特発性大腿骨頭壊死症をご存知ですか?

第22回 人工関節置換術の適齢期は?

第21回 あなたはサルコペニアですか?

第20回 赤ちゃんの股関節脱臼に注意しましょう

第19回 股関節手術の思い

第18回 いつまでも健やかに

第17回 「セメントレス人工股関節」

第16回 「骨切り術も再生医療です!!」

第15回 「骨粗鬆症の激増と過激な減量、ビタミン・ミネラル不足」

第14回 「大腿骨頭はどうして球形なの?」

第13回 「人生いろいろ、手術もいろいろ」

第12回 「股関節疾患の過去、現在、未来」

第11回 「国産医療機器メーカーとして」

第10回 「「股関節」という言葉で思いついたつれづれなること」

第9回 「股関節のインプラント治療」

第8回 「患者会としての30年」

第7回 「私の股関節と剣道」

第6回 「股関節唇損傷自己体験記」

第5回 「人工股関節全置換術より高い満足度を求めて」

第4回 「人工股関節置換術と関節温存手術」

第3回 「乳児股関節脱臼―歴史は繰り返す―」

第2回 「股関節疾患今昔」

第1回 「肝心要は股関節から」


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