田巻 達也
讃高会 高井病院、なか整形外科 京都北野本院
変形性股関節症は、股関節の痛みや機能障害の原因となる代表的な疾患で、患者さんの多くは女性です。症状が進むと、痛みが強くなり、日常生活では、しゃがみこみや正座が難しくなったり、靴下が履きにくくなったりします。また、長時間の歩行や階段の昇り降りが困難となり、生活の質(QOL)が低下します。尿失禁(尿漏れ)も、QOLを低下させる代表的な疾患であり、年齢と共に症状をもつ患者さんは多くなります。変形性股関節症と尿失禁の共通点は、中高年の女性に頻度が高いことであり、両方でお困りの患者さんは、実はたくさんおられます。
日常の股関節診療の中で、股関節の手術後に、手術前にあった尿失禁の症状が良くなった、と喜ばれた患者さんの声を聞くことがありました。私の所属していた病院で、泌尿器科の医師と協力して、変形性股関節症に対して人工股関節置換術を受けられた患者さんの尿失禁に関する調査をしたことがあります。その結果、人工股関節置換術を受けられた女性患者さんの、およそ3分の2に、程度の差こそあれ尿失禁の症状があることがわかりました。そして、その中の半数以上の患者さんで、股関節の手術後に、尿失禁の症状が改善することがわかりました。
骨盤の底を支える筋肉の総称を、骨盤底筋と呼びます。骨盤底筋は、膀胱や子宮、直腸などの骨盤内の臓器を支え、排尿をコントロールする重要な役割も担っています。骨盤底筋の中には、股関節を動かす筋肉も含まれています。一般に、股関節が悪い患者さんでは、股関節周りの筋肉が落ちますが、同時に骨盤の動きが悪くなり、骨盤底筋の働きも低下しているのではないかと考えています。もちろん、尿失禁の発症には多くの因子が関与しますので、単純に股関節が悪くなったら尿が漏れてしまう、という訳ではありませんが、尿失禁でお困りの患者さんの中には、股関節が悪いために、さらに症状がひどくなっている場合があるのではないかと考えています。
股関節と尿失禁、関係ないようで意外と関係がありそうです。尿失禁に対する骨盤底筋トレーニング、これはかなり普及しているようですが、股関節のトレーニングやリハビリテーションも併せて行ってみるのはいかがでしょうか。