髙橋 謙治
京都府立医科大学 整形外科学教室 主任教授
高齢社会で骨粗鬆症の治療を受けている方が増加しています。骨粗鬆症治療薬のなかで骨折予防効果が大きく、広く使われている薬剤にビスホスホネート(BP)があります。しかし、BPを長期間服用していると、ごくまれに大腿骨の転子下や骨幹部という場所に特殊な骨折を生じます。それが大腿骨非定型骨折です。
この骨折の特徴は、前ぶれの症状があることと骨癒合が得られにくいということです。前ぶれの症状は鼡径部や大腿部の疼くような痛みであることが多く、そのまま放置すると、つまずくなどの軽微な外傷、時には外傷もなく完全に骨折してしまいます。BPは骨吸収を抑制する薬剤です。長期間使用していると骨代謝が過剰に抑制された状態となり、骨折の修復機構が十分に働かなくなり、骨癒合が得られにくくなります。
国内での発生頻度は32−59/100万人・年とされています。そのうちBPを使用している人の割合は12−90%と幅がありますが、BPの内服期間が長いほど発生リスクが上がるされています。さらに、近年の報告で東洋人に発生しやすいことや、ステロイドや胃潰瘍治療薬であるプロトンポンプ阻害薬との使用によって発生リスクが上昇することもわかってきました。
診断には大腿骨の単純X線像、MRIや骨シンチグラムが有用です。単純X線像では、皮質骨の膨隆が特徴的な画像所見です(図1)。単純X線像で典型的な所見がないにも関わらず、痛みが続く場合にはMRIや骨シンチグラムで精査します。両側発生が28-44%という報告があるため、片方が診断された際には、MRIや骨シンチグラムなどで対側に異常がないか調べておく必要があります。
完全に骨折した場合には手術が必要です(図2a、b)。前ぶれ症状のみの場合でも、画像所見で診断できた場合、予防的に手術を行うこともあります。どちらの場合でも通常の骨折よりも骨が治りにくく、26%で癒合が遷延するという報告もあります。
大事なことは、この骨折は予防しえるということです。BPの内服期間が3年以上で、内服期間が長くなれば長くなるほど大腿骨非定型骨折のリスクは上昇します。しかし、BPを休薬すれば、3か月から1年3か月でリスクは半分となり、1年3か月から4年でリスクは20%程度に低下します。一方、BPによる骨粗鬆症性骨折の予防効果は大きく、長期休薬することで骨折リスクは上昇します。このため、BPの休薬あるいは薬剤変更の必要性については主治医の先生とよく相談した上で決めることが大切です。正しい骨粗鬆症治療で骨折のない生活を送りましょう。