三浪 明男
北海道せき損センター 病院長
北海道大学名誉教授
別府諸兄理事長から股関節(外科)に全く門外漢である私に手外科からみた股関節外科の記述を依頼されました。別府先生とは手の外科及びMicrosurgeryの分野で40年来の親密な交流があり、家族ぐるみのお付き合いをさせていただいているためと思います。私のような股関節についてよく知らないものが甚だ不遜とは思いますが外からみた股関節外科を観察した印象を記載させていただきたいと思います。
私は実は手の外科分野に進まなかったとしたら股関節分野に進んだと思います。私が研修医の頃は先天股脱や臼蓋形成不全の小児患者がたくさん入院しておられました。そのころ、本邦に導入されたばかりのSalter手術やPemberton手術が盛んに行われた時期でした。また初期から進行期の変形性股関節症(OA)患者には何とか骨頭温存の意味から大腿骨骨切り術(外反及び内反)、臼蓋回転骨切り術(田川式)や大腿骨頚部回旋骨切り術(杉岡式)などが盛んに行われていました。末期OA患者に対しては人工股関節置換術(THA)が行われ始めた時期でした。当時、私はこれら年齢別の多彩な手術法とそれらの適応についてのdiscussionに大いに興味をいだきました。しかし4年目の研修病院でのfarewell operationとして大腿骨骨頭下骨折に対する人工骨頭置換術を行わせていただきました。研修を終えて大学に戻ったときにObenの先生に手術の結果はいかがでしたとお伺いすると、その患者さんは翌日に脱臼しましたと伝えられ、股関節外科は私には無理と思った瞬間でした。
先日、新潟市で石川肇先生が学会長として第50回日本関節病学会が開催されました。「人工関節の歩みと展望」に関する特別シンポジウムが企画され、私は人工手関節に関する講演を担当させていただきました。その時に関西医科大学リハビリテーション学部 飯田寛和先生が「人工股関節の歩みと展望」についてご講演されました。
私は、THAはすでに確立した手技と長期の良好な成績が得られているものと承知しておりましたが、飯田先生のご講演で解決すべきいくつかの課題があると知りました。私は本邦初の人工手関節(DARTSⓇ人工手関節)を開発したものにとっては見えないほど遠くまで先行しているものと思っておりましたが、まだ問題はあるんだと思いました。また、講演中のほとんどの機種はいわゆる外国製であり日本製で広範にそして多く用いられているものが少ないことを知り、やはり日本製の日本人に合ったsizeの素晴らしい機種の人工股関節開発をすべきではと実感しました。
最近は当院では人工膝関節置換術よりもTHAの方が、数が増加している傾向があります。手術を受けられる患者さんのアメニティの向上を図る意味からも股関節外科のますますの発展を期待している一人です。