別府諸兄
(公財)日本股関節研究振興財団 理事長、聖マリアンナ医科大学 名誉教授
明けましておめでとうございます。今年も財団を宜しくお願い申し上げます。
さて、今年の2月で故伊丹康人先生が公益財団法人日本股関節研究振興財団を創設して35年であります。この日本股関節財団会報創刊号において「当財団の目指すものは、股関節に関する疾患を組織的に調査研究し、的確な治療法を確立することによって、股関節の病気で悩む方を一人でも少なくし、より良い社会を創造することである。」と述べています。
この間、当財団では股関節の研究に関する助成事業、海外研修助成事業、国内研修助成事業等を行い、その研究成果報告書の作成、股関節疾患の予防や治療方法の開発を行い、若い股関節の研究者の育成・向上を行ってきました。また、一般の方々に股関節の病態や運動器の健康寿命を延ばすための股関節市民フォーラム、体操指導者研修事業も行ってまいりました。
特にこの股関節財団のモットーは股関節に因み、「いつまでも元気で歩くために」であります。この考えは股関節疾患の基本でありますが、高齢社会になり健康寿命延伸のためには益々重要な意味をなしています。
高齢者は、「寝たきりになると認知症になりやすい」と言われます。そして「よく歩くと認知症になりにくい」ことが最近の研究によってわかってきました。70~80歳の女性の認知機能テストと日頃の運動習慣の関係を調べた東京都健康長寿医療センターの研究によると、日頃よく歩く人はテストの成績が良く、少なくとも1週間に90分(1日あたり15分程度)歩く人は、週に40分未満の人より認知機能が良いと報告されています。また、歩行が脳のアセチルコリン神経を活性化して海馬や大脳皮質の血流を増やすのではないかと考え、それを証明する実験が報告されています。その方法は、ラットにトレッドミル(ランニングマシン)の上を歩かせて、その際の海馬の血流を測定するものです。歩く速さを、「遅い」「普通」「速い」の3段階に分けて、それぞれ30秒間歩かせてみます。すると、いずれの速さで歩いても、歩行中の海馬血流が増加しました。海馬の血流は、歩行開始直後から増えはじめ、歩行をやめると徐々に元に戻ります。「普通」の速さで歩いた時に海馬のアセチルコリン量を調べると、増えることがわかりました。つまり、無理のない歩行を行うと、海馬のアセチルコリンが増え、海馬の血流が良くなるのです。 興味深いことに、老齢のラットでも、若いラットと同様の結果が得られました。無理せずゆっくり歩くことは、年齢に関係なく脳の血流を増加させるのです。
この2年間に新型コロナウイルス感染拡大により、外にでて歩く機会が減少し、自宅にこもることが多かったと思います。是非とも、新型コロナウイルス感染が一日も早く一段落し、「いつまでも元気で歩くために」を実践できる状況になることを祈念しております。
今年も何卒、ご支援の程、宜しくお願い申し上げます。
参考文献
Nakajima K, Uchida S, Suzuki A, Hotta H, Aikawa Y: The effect of walking on regional blood flow and acetylcholine in the hippocampus in conscious rats. Auton Neurosci, 103: 83-92, 2003 Jan.