変形性関節症に対する人工股関節置換術後の機能障害改善は概ね良好です。年々術式、インプラント等の改良が行われてきたことが貢献しているのですが、依然として10％の症例が機能回復に不満足であるという報告があります（文献１）。術後機能回復が不満足となる原因として、術後機能回復と関連する術前因子があるのではないかと考えました。変形性股関節症では股関節外転筋に脂肪浸潤が増加しているという報告がありました（文献２）ので、人工股関節置換術後の歩行能力と関連する患肢股関節外転筋群の術前筋組成因子を同定することを目的に、研究を行いました。今回の研究から興味深い結果が得られましたので、ご紹介いたします。
　片側人工股関節置換術をうけた変形性股関節症患者の術前CT横断画像を用いて、中殿筋＋小殿筋と大殿筋上方部の全筋区画横断面積と、除脂肪筋肉，低密度筋肉，筋内脂肪の筋区画内各面積をCT値に基づいて測定しました。術後６か月時点の歩行速度、術後６か月時点のTimed Up-and-Go test (TUG)と有意に相関していた術前筋組成因子を用いて重回帰分析をしました。その結果、術後歩行速度を予測する因子として大殿筋上方部の全筋区画横断面積、術後TUGを予測する因子として中殿筋＋小殿筋の低密度筋肉面積が抽出されました（文献３）。さらに、片側性変形性股関節症女性患者の大殿筋上方部全筋区画横断面積が術後歩行速度における臨床的意義のある最小改善を予測する因子であること、中殿筋＋小殿筋の全筋区画横断面積に対する除脂肪筋肉面積比が術後歩行速度改善を部分的に説明可能な因子であることが、別の研究結果から示唆されました（文献４）。
　それらの結果から、股関節外転筋の筋組成を良好な状態に維持しておくことが、人工股関節置換術後の良好な機能回復につながる可能性があります。股関節外転筋をターゲットとしたリハビリテーション等による有効な術前介入方法の開発が、今後の課題であると考えます。

文献
1. Halawi MJ, et al. J Arthroplasty 2019; 34: 1093–6.
2. Kivle K, et al. Bone Jt Open. 2021;2(1):40–7.
3. Yasuda T, et al. Arthroplasty 2022; 4: 23.
4. Yasuda T, et al. J Pers Med 2023; 13: 1279.