第79回 Hip Joint コラム

「非対面型コミュニケーションの課題」
谷 眞人
日比谷見付法律事務所 弁護士
 コロナウイルス感染症の蔓延に伴い、私たち弁護士の会議もWeb会議が多用されるようになった。特に弁護士会の委員会活動における会議は、ほとんどがzoom等のWeb会議システムが併用される、いわゆるハイブリッド型の会議となっている。
 Web会議の多用は、移動時間、交通費や宿泊費等の削減等のメリットがあり、参加しやすさから委員会への出席率が高まるなどの良い効果も指摘されている。
 しかし、このような非対面型コミュニケーションにおいては、違和感や疲れ、意見交換の消化不良を度々感じる。空気を読むということができず、共感も生まれにくい状態になっているのではないだろうか。
 この点、脳トレを普及した東北大学の川島隆太教授が、同大学の学生の協力を得て行った実験によると、学部や性別が同じで、興味関心が似ている人たちを5人一組にして、学部の勉強や趣味など共通するテーマについて、顔を見ながらの対面とズームなどを使ったオンラインとで、それぞれ会話してもらい、脳活動を比較したところ、顔を見ながら会話しているときは、きちっと脳反応の周波数で同期現象(共感している状況)が見られるものが、オンラインでは、一切見られなかった(朝日新聞2022年1月27日)という。
 また、言語情報と非言語情報の情報伝達の違いに関するアメリカの社会心理学者メラヴィアンの法則によると、情報はVerbalで7%、Vocalで38%、Visualで55%が伝わるという。つまり情報のうち言語で伝わるのはわずかに7%で、残りの93%は非言語情報で伝わるということである。
 確かに、会議等の意見交換に限らず、我々弁護士が裁判で証人尋問をするような場合や、依頼者から事情を聞き取るような場合にも、言語から得られる情報より、会話時の声の大きさ、間の取り方、表情の変化や、身体的な細かなシグナル(体を乗り出す、視線をそらす、目が泳ぐ、貧乏ゆすりをしている、ふるえている、汗をかいている、顔が上気している等)という非言語的要素から得られる情報の方が、相手方の本音(真実)を読み取るには重要である。
 ところがWeb会議の場合は、機器の影響による場合が多いが、聞き取りにくかったり、逆に異様に大きな音声となったり、会話のタイミングが一拍ズレたり、映像が小さいと表情も態度を読み取るのは不可能であるし、顔色も映像の具合で暗めだったり妙に明るかったりする。これでは、我々がこれまで対面による会話で培って来た情報感得手法が全く役にたたない。これが、Web会議で感じる違和感や疲れ、議論の消化不良の正体なのではないだろうか。非対面型コミュニケーションでは得られないものの大きさを感じる。

Hip Joint コラム履歴

第110回 「それ手術ですか?」

第109回 「お笑い芸人の変形性股関節症の話題:その後」

第108回 「人生100年時代を生きる! 運動器とロコモ予防の大切さ」

第107回 「ロボットとAIが変える股関節治療の未来」

第106回 「日本とフランスにおける股関節外科の交流」

第105回 「はて、体操とは?」

第104回 「使って残そう運動神経」

第103回 健康日本21(第3次)における運動器対策:
「ロコモテイブシンドロームの減少」と「骨粗鬆症検診率の向上」

第102回 「股関節周囲筋の加齢変化と、根拠に基づいた運動療法」

第101回 「原因の分からない股関節痛、急速破壊型股関節症の始まりかもしれません」

第100回 「新・繁文縟礼(はんぶんじょくれい)時代」

第99回 「当財団の股関節海外研修助成について」

第98回 「いつの日か花開く研究」

第97回 「人工股関節置換術に想う」

第96回 「変形性股関節症の保存療法」

第95回 「大腿骨近位部骨折のリスクを下げるために出来ること」

第94回 「手外科医として,整形外科研究者として股関節外科から学ぶ」

第93回 「人工股関節置換術の進歩と課題:第96回日本整形外科学会学術総会から」

第92回 「股関節を丈夫にして健康寿命を延ばしましょう!」

第91回 「骨粗鬆症患者の骨折の危険性について」

第90回 「手外科医からみた股関節外科」

第89回 「エコー診断・治療のすすめ」

第88回 「人工関節材料の開発における日本の貢献」

第87回 「赤ちゃんの股関節大丈夫ですか?」

第86回 「人工股関節 『脱臼には注意しましょう。』」

第85回 「ロボットリハビリテーション 股関節疾患への応用」

第84回 「お笑い番組での人工股関節の話題」

第83回 「人工股関節の寿命を長期化する取り組み」

第82回 「人工関節インプラントの国産化の必要性」

第81回 「手術はレントゲン写真ではなくその人を!」

第80回 「骨粗鬆症治療中に注意が必要な骨折−大腿骨非定型骨折−」

第79回 「非対面型コミュニケーションの課題」

第78回 「我が国に寛骨臼形成不全が多いのは、何故?」

第77回 「超高齢社会における股関節疾患の未来」

第76回 「コロナ禍の整形外科」

第75回 「2022年新年の思い」

第74回 「人はなぜやせられないのか?」

第73回 「脆弱性骨盤骨骨折に思う」

第72回 「骨粗鬆症による大腿骨近位部骨折の予防と治療」

第71回 股関節疾患に関する基礎研究

第70回 「日本人工関節登録制度をご存知ですか?」

第69回 子どもや孫が「家族歴」が理由で
股関節健診にひっかかった!!時に読む記事

第68回 「姿勢と呼吸」

第67回 筋肉が衰えればすべてが衰える

第66回 人工股関節全置換術術後でも足の爪が
自分で切られない患者様に対する自助具を開発しました!

第65回 人工股関節は生身の股関節より性能が良い!

第64回 2021年新年の展望

第63回 股関節と尿失禁(尿漏れ)の意外な関係

第62回 大切な「何か」

第61回 大腿骨近位部骨折と骨折リエゾンサービス

第60回 私の股関節と剣道 第2報 2週間の入院経験

第59回 コロナパンデミックとスペイン風邪

第58回 「ヒップの摩耗の問題:本当にあった話です」

第57回 赤ちゃんの股関節を守るため、生まれてすぐからの予防を!

第56回 コロナ、ステイホームで思うこと

第55回 高齢者の骨粗鬆症と大腿骨頸部骨折

第54回 変形性股関節症に対する温泉療法について

第53回 国内におけるカダバートレーニングの現状

第52回 2020年(令和2年)新春明けましておめでとうございます。

第51回 「ヒップペイン」

第50回 人工股関節の術後合併症

第49回 『きょうよう』・『きょういく』と股関節

第48回 股関節の痛みとロコモティブシンドローム

第47回 股関節の神秘

第46回 生き方が役に出る

第45回 変形性股関節症に対する骨切り術とテクノロジー

第44回 変形性股関節症「寛骨臼(臼蓋)形成不全に起因する

第43回 3Dプリンターの医療機器への応用

第42回 中間管理職から見た股関節手術を取り巻く教育の現状

第41回 Wolffの法則

第40回 医者と弁護士

第39回 骨の銀行があることを知っていますか?

第38回 悠々閑々外来の妙

第37回 股関節手術でAIは整形外科医を超えられるか?

第36回 ステロイド治療に伴う大腿骨頭壊死の発生予防を目指して

第35回 股関節手術と今後の健康維持

第34回 財団30周年に寄せて

第33回 大腿骨近位部骨折(足の付け根の骨折)は早く治療を!

第32回 腰痛は人間の宿命です-腰椎・骨盤・股関節の連携-

第31回 股関節の手術と健康寿命

第30回 弘法は筆を選ばず?

第29回 大腿骨近位部骨折が増加しています-50歳を超えたら骨折予防-

第28回 呼吸を整え体を動かそう

第27回 人工関節の寿命は予測できるの?

第26回 人工関節手術後の早期社会復帰と保険医療制度の疲弊

第25回 赤ちゃんの股関節脱臼に思う

第24回 新しい高齢者像を求めて、メディカルフィットネス 医学体操の活動

第23回 指定難病の特発性大腿骨頭壊死症をご存知ですか?

第22回 人工関節置換術の適齢期は?

第21回 あなたはサルコペニアですか?

第20回 赤ちゃんの股関節脱臼に注意しましょう

第19回 股関節手術の思い

第18回 いつまでも健やかに

第17回 「セメントレス人工股関節」

第16回 「骨切り術も再生医療です!!」

第15回 「骨粗鬆症の激増と過激な減量、ビタミン・ミネラル不足」

第14回 「大腿骨頭はどうして球形なの?」

第13回 「人生いろいろ、手術もいろいろ」

第12回 「股関節疾患の過去、現在、未来」

第11回 「国産医療機器メーカーとして」

第10回 「「股関節」という言葉で思いついたつれづれなること」

第9回 「股関節のインプラント治療」

第8回 「患者会としての30年」

第7回 「私の股関節と剣道」

第6回 「股関節唇損傷自己体験記」

第5回 「人工股関節全置換術より高い満足度を求めて」

第4回 「人工股関節置換術と関節温存手術」

第3回 「乳児股関節脱臼―歴史は繰り返す―」

第2回 「股関節疾患今昔」

第1回 「肝心要は股関節から」


新・股関節がよくわかる本Web版
小児と股関節
股関節市民フォーラム
股関節疾患について
HJFJ人工股関節ステッカー
股関節の悩みQ&A
股関節の治療法
一般向け動画
Hip Joint Column
Hip Joint News
ロコモン体操
患者会紹介