近未来のSF映画では、患者さんがベルトコンベアーに乗り、トンネルを抜けるだけで診察や治療が終わるシーンが描かれています。そんな未来が現実になる日も遠くないかもしれません。ロボットとAIの技術が、医療をふくめ多くの分野で大きな変革をもたらそうとしています。今回は、股関節治療、特に人工股関節全置換術（THA）におけるロボット技術についてお話しします。

ロボット人工股関節手術が保険適応

2024年7月よりロボット手術が保険治療として認可され、ロボットを使用したTHA広く知られるようになってきました。ただし、保険適応となるロボットは現在のところ、Stryker社のMako Roboticsだけです。
私自身の経験は、Makoがまだアメリカでベンチャー企業だった頃から非常に興味を持っており、その技術を詳しく知るために2013年にシカゴの病院Hinsdale まで見学に行ったことを思い出します。当時は新興企業であったMakoが、今では日本を含む世界中で広く使われる技術となっていることに、感慨深いものがあります。

Mako Roboticsの特徴と利点

MakotRoboticsは、外科医がより正確に手術を行うための支援を提供します。具体的には、手術前にCTスキャンを行い、患者様の股関節の3Dモデルを作成します。このデータを基に、個々の患者様に最適な治療計画を立てることができます。
手術中は、外科医がロボットアームを使用してインプラントを正確に配置します。ロボットアームは外科医の動きをサポートし、必要に応じて微調整を行います。これにより、手術の精度が大幅に向上し、術後の股関節の機能が改善されます。つまり、手術中の骨折や術後の脱臼がおきにくいのです。

筋肉を切らないDirect Anterior Approachとの相性がよい

特に注目すべきは、Mako Roboticsが筋肉を切らないDirect Anterior Approach（DAA）と非常に相性が良い点です。DAAは、フランスで生まれ、アメリカで発展した筋肉を切らずに股関節にアプローチする手術法であり、そのために視野が狭くなり、熟練した技術が必要とされます。しかし、Makoのロボットアームを使用することで、この狭い隙間から精密にインプラントを設置することが可能となります。これにより、DAAのメリットを最大限に引き出すことができ、手術後の回復がさらに早まります。つまり、入院期間短縮、術後の痛みの軽減につながります。
Mako Roboticsの導入により、股関節全置換術はより安全で効果的になりました。高精度な手術が可能となったことで、手術後の合併症リスクが低減し、回復も早まります。また、手術前に詳細な計画を立てることで、手術中の予期せぬ問題を最小限に抑えることができます。
このような技術の進歩により、患者様は早期に日常生活に戻り、より快適な生活を送ることができるようになります。股関節治療の未来は、ロボットとAIの力によってますます明るくなっています。