Hip Joint コラム

股関節に関する有識者の方々が、様々な切り口で股関節をコラム形式で解説します。

  
第54回 Hip Joint コラム 2020.03.01

変形性股関節症
に対する温泉療法について

杉原 俊弘  栃木県医師会塩原温泉病院 顧問 画像
杉原 俊弘
栃木県医師会塩原温泉病院 顧問

 変形性股関節症治療の保存療法として、また術後のリハビリテーションとして、温泉を利用して物理療法と運動療法を同時に行える温泉療法について紹介します。
 温泉の歴史は紀元前3-4000年にエジプトで利用され、古代ギリシャ時代ではすでに病気治療のために温泉利用が確立されています。一方、日本では、鎌倉時代以降になって、信仰の存在となっていた温泉に対し、医学的な活用が増えて実用的なものになりました。温泉の定義は源泉温度が25度以上であること、または水素イオンなど19の特定成分が1つでも規定値に達していれば満たされます。水素イオン濃度「ph値」による分類では1.強酸性泉2.酸性泉3.弱酸性泉4.中性泉5.弱アルカリ性泉6.アルカリ性泉に分けられ、酸性度が高いと殺菌効果があり、皮膚病に効きやすい。中性泉は肌にやさしい。アルカリ度が高いと美肌効果があります。
 温泉を利用しての療法としては療養温泉(医学的な知識を用いて疾病や傷を治療しながら休養する)、湯治向け温泉(温泉に通ったり滞在して、疾病や傷を平癒する)、保養温泉(心身を休め、人体を健康に保つ)があります。
 温泉療法のエビデンスとして1.温熱効果2.浮力、水圧(静水圧)、粘性抵抗利用による水中運動の効果3.含有成分による化学的効果4.心理的効果が報告されています。
骨関節疾患の温泉浴のみの温熱療法は1.温熱作用として①血管拡張による局所血流増加(蓄積した疼痛発痛物質を洗い流し除痛効果につながる。筋肉疲労の改善。)②疼痛閾値が上昇し鎮痛効果③コラーゲン柔軟化により筋肉や腱の緊張緩和が図られ、関節可動域の改善が得られます。また2.温泉での温熱療法と運動療法を組み合わせたプールでの水中運動効果として①免荷②筋力強化③筋・関節拘縮の軽減④転倒骨折のリスクがない⑤バランス向上があります。①免荷について、水中では浮力により陸上に比べ、体重による下肢関節への荷重負荷が軽減する。骨折や手術後の免荷時期にも歩行訓練や筋力強化訓練などを行える。②筋力強化について、水の粘性抵抗は運動の2乗に比例するので体力や筋力のない患者がゆっくり動けばそれなりの筋力強化だが、ある程度筋肉がついてきて動きが速くなればそれだけ抵抗も大きくなり、患者個々の状態に合わせた筋力強化が可能であります。③筋・関節拘縮の軽減について温熱で腱など結合組織の柔軟性が出て、拘縮に対する関節可動域訓練が容易となります。四肢、体幹のスパズム(筋の過緊張)にも効果があります。④水中の為、訓練中に転倒しても骨折することはほとんどありません。⑤バランス向上について人体の重心は骨盤内で仙骨のやや前方にあります。浮力の中心は人体の水面下にある部分の中心なので重心と浮心にはズレがあります。この関係でバランス向上に役立ちます。温泉プールでの実際プログラムとしては、運動器疾患で入院している患者を対象に1コース30分で、開始前に5-10分の水中歩行を準備運動として行い、慣れてくると普通歩行だけでなく大股歩行や横歩きなどを加えます(図1)。コースの途中で休憩を取り、水分補給を行っています。
 以上のことから温泉プールを持つ施設は限定されますが、もっと積極的に温泉を利用した水中運動を手術前後に取り入れてよいと考えています。

図1 38度 塩類泉 温泉プールでの水中運動

38度 塩類泉 温泉プールでの水中運動 写真

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