股関節に関する有識者の方々が、様々な切り口で股関節をコラム形式で解説します。
みなさんは股関節の痛みがどのようなものか知っていますか?
私は、平成22年に日本股関節股関節研究振興財団の助成金をいただいてから10年間、ヒップペインのリサーチに取り組んできました。これまでに分かったことをご紹介します。
まず、股関節のどこが痛くなるのかについて調べました。変形性股関節症の患者さん443名を調査したところ、そけい部といって足の付け根の股関節の前方部分の痛みが89%で最も多く、次いで殿部(でんぶ)といっていわゆるお尻の部分の痛みが38%、大腿(だいたい)といって太ももの前方部分の痛みが33%、膝の前面の痛みが29%、股関節の真横の部分(大転子部、だいてんしぶ)が27%、腰の痛みが17%、下腿(かたい)といって膝から下のすねの痛みが8%という結果でした[引用文献1]。そけい部と殿部と大転子部を合わせた股関節の周りに痛みを感じやすく、それらを合計すると95%の患者さんが股関節の周りを痛がることが分かりました。
しかし、逆に言えば5%の患者さんでは股関節が悪いにもかかわらず、股関節の周りを全く痛がらないことも分かりました。このような患者さんでは、よほど注意して診察しないと股関節の病気を見逃してしまう恐れがあります。
そして、55%の患者さんでは、関連痛といって股関節から離れた膝や腰まで痛みが走ることが分かりました。さらに、片方の股関節だけが悪い患者さんに比べて、両方の股関節が悪い患者さんや、全身の関節が悪い患者さんの方が関連痛を生じやすいことも分かりました。
続いて、変形性股関節症とならんで代表的な病気である、特発性大腿骨頭壊死症(とくはつせいだいたいこつとうえししょう)の患者さんについても、同じように調べてみました。特発性大腿骨頭壊死症の患者さん119名を調査したところ、そけい部の痛みが93%とやはり最も多くみられましたが、二番目に多かったのは膝の痛みで68%、次いで、大腿前面の痛みが36%、殿部の痛みが34%、下腿の痛みが18%、大転子部が9%、腰の痛みが8%という順でした[引用文献2]。
特発性大腿骨頭壊死症でも97%の患者さんが股関節の周りを痛がりますが、77%に関連痛がみられることが分かりました。特発性大腿骨頭壊死症の関連痛の特徴として、膝や下腿の痛みが多く、腰の痛みが少ないという傾向がありました。
関連痛の分布が変形性股関節症と特発性大腿骨頭壊死症で違うということは、この調査が行われるまで分かっていませんでした。小児の股関節の病気であるペルテス病や大腿骨頭すべり症では、どちらも膝を痛がることが多く、見逃しが起きやすいので注意しなければならない、とされています。成人においても、膝や腰を痛がる患者さんは、もしかしたら股関節が悪いのかもしれません。ヒップペインについて理解が深まり、診断のお役に立てれば幸いです。
引用文献
1)Nakamura J, Oinuma K, Ohtori S, et al. Distribution of hip pain in osteoarthritis patients secondary to developmental dysplasia of the hip. Mod Rheumatol. 2013 Jan;23(1):119-24.
2)Nakamura J, Konno K, Orita S, et al. Distribution of hip pain in patients with idiopathic osteonecrosis of the femoral head. Mod Rheumatol. 2017 May;27(3):503-507.