股関節に関する有識者の方々が、様々な切り口で股関節をコラム形式で解説します。
ロコモとはロコモティブシンドローム(運動器症候群)の略で、筋肉・骨・関節などの身体を動かすために重要な「運動器」の働きが悪くなって、介護が必要になる危険が高い状態のことをいいます。ロコモになってしまう原因には、加齢や運動不足など様々なものがありますが、そのうちの一つに股関節の痛みが挙げられます。
股関節の痛みをきたす代表的な疾患は、変形性股関節症です。東京大学を中心とした大規模な疫学調査の結果1)では、単純X線写真で変形性股関節症を認める割合は約15%とされており、そのうち股関節の痛みを訴える割合は5%と報告されています。よって、15歳以上の人口から単純に計算すると、日本国内では70-80万人の方が、変形性股関節症による股関節の痛みで悩んでいるということになります。
通常、変形性股関節症による痛みの多くは関節から起こる侵害受容性の痛みとされています。痛みは神経の異常興奮を起こし、血管の収縮や筋肉の緊張を強めます。それに伴い、血行が悪化し、さらに痛みを起こす物質が発生します。したがって、痛みがあるからといって動かないでいると痛みの悪循環に陥ってしまします。そうならないためにも、股関節のストレッチや股関節周囲の筋肉を鍛える運動は重要で、こういった運動をすることにより、痛みがやわらいだり、変形の進行を遅らせたりすることができます。それでも、変形がかなり進み、強い痛みで日常生活や仕事に支障をきたしているようであれば、人工股関節置換術などを検討することになります。
人工股関節置換術は、除痛効果が高く長期成績の良いとても有効な手術とされていて、本邦においても年間8万人以上の方が手術を受けています。人工股関節置換術を受けることで、股関節の痛みが軽減して日常生活動作、生活の質の向上につながります。我々の施設においても、人工股関節置換術を施行した患者さんに対してロコモ度テストを用いて調査を行ったところ、手術前にロコモ度2の患者さんの割合が、術後1年で約80%減少しました。
股関節の痛みをなくして運動器の働きを保ち、ロコモを予防していくことが健康寿命の増進につながり、平均寿命と健康寿命の差をなくすことが、個人の生活の質を改善させ、介護などの負担軽減につながっていくと思います。
引用文献 1) Iidaka T et al. Prevalence of radiographic hip osteoarthritis and
its association with hip pain in Japanese men and women: the ROAD study.
Osteoarthritis and Cartilage, 24 (2016), pp. 117-123