もし、体の何処かに痛みを覚えたら、とりあえず痛い場所をそっとしようと考えるでしょう。そして休めてやることによって、時間とともに痛みが軽減した経験は誰にでもあると思います。それがそのまま安静療法です。勿論関節も例外ではありません。
痛みは体が発するアラームですから、まずは素直にその言葉に耳を傾け痛いところをそっとした方が良いでしょう。
また、この場合湿布やサポーターを併用するのも良いでしょう。
薬物療法は化学的治療法の代表であり、内科では大きな比重を占めています。
しかし、関節症治療で用いられるのは主として痛み止めであり、その主たる意義は鎮痛と消炎です。痛みは人間にとって最大の悩みのひとつであって、それからの解放は大きな福音であります。従って、副作用などの問題点はあっても背に腹は代えられない場合も多いと思います。 ただ痛みは身体の発するアラームですから、具合の悪い関節の痛みを薬でごまかして酷使すると関節症がより早く進行すると言われています。できれば、ここぞという所で用い、普段はできるだけ使用を避けるという使い方ができれば、それに越したことはありません。
この分野の最近の話題は、伝統的に用いられてきた消炎鎮痛剤以外に、弱オピオイド、抗うつ剤等が導入されたことです。消炎鎮痛剤が胃腸や腎臓の障害を引き起こす可能性があるのに対して、これらの薬は命に係わるかねない腎障害等を起こしにくいということが長所ですが、一方悪心や傾眠などの副作用もありますので違った方向での注意が必要です。
最近では経口薬以外の湿布や塗り薬の多くは消炎鎮痛剤を含有しており、飲み薬の消炎鎮痛剤の大きな欠点である胃腸障害を起さず、局所に鎮痛剤を浸透させようという狙いを持っています。ただ外用薬は、薬としての効能もさることながら使用感が大きな要素となっています。例えば温湿布にはカプサイシン(トウガラシエキス)が入っていて、冷湿布にはメントール(ハッカの成分)が入っています。温湿布でかぶれやすく、冷湿布ですーっとするのが良く理解できるでしょう。
ところで良く湿布は温かい方がよいのか、それとも冷やしたらよいのかと聞かれます。次の理学療法の項で、なぜ湿布で痛みが楽になるのかについて解説しますが、原則は『熱い時は冷やし、冷たい時は暖める』でよいのです。
グルコサミン等のサプリメント(健康食品)で関節軟骨が良くなるかということについては、明らかに有効という証拠(エビデンス)は得られていないと思います。ただ、それを服用することで疼痛が緩和しているという報告がありますので、一概に否定できませんが、過信は禁物です。
現在、理学療法の情報は社会に氾濫していますがその原理は次の通りです。
例えば、子供が転んで膝を擦りむいて泣いている時、お母さんが痛いところにふうふう息を吹きかけたりさすったりしますと、精神的安寧以外に確かに楽になった思いがあります。
また痛いところを冷やしたり温めたりすると、痛みが楽になることは日常良く経験すると思います。
これはメルザックという人が、1960年代に提唱したゲートコントロールセオリーという『痛み』理論によれば、容易に説明ができます。つまり傷めた場所と同じところを触るとか、さするとか温度刺激を加えるとか、何か他の刺激を与えると、痛み刺激がマスクされてしまい楽になるということなのです。
その刺激信号の出入りをコントロールしている場所は、
理学療法の鎮痛以外の効果は、例えば
やっている間しか楽にならないということも良く耳にしますが、害が無いことから、とりあえず自分に合う理学療法を探してみてもよいと思います。
股関節症の保存療法で頼りになる「 三種の神器 」は、
ヒールクッション、
ヒップサポーター、
ステッキ のことです。
次はヒップサポーターですが、サポーター型の装具の目的は局所の安静を図り鎮痛を得ることと弱った筋力の補助です。ただもし本格的に股関節の安静を得ようとすると、骨盤から大腿まで覆う大きなものになってしまします。そのため、女性ではトイレの度に着脱しなければならないなど実用性に乏しいものになってしまいますので、今のところ膝や足部のサポーターに比べ普及していません。ただその煩わしさを厭わなければ有効です。
患者さんによっては、ボディースーツを着けたり腰痛用のベルトを股関節の高さで巻いて関節の安定化を図ってそれなりに効果をあげている方もおられますので、最初はそういうものを試してみて良かったら本格的に作ってみるのもよいでしょう。
またヒップサポーターは、そのまま転倒骨折予防装具として最近注目されています。
杖の使用は心理的抵抗が大きいのですが、もし使用してもらえればとても有用な装具です。立ち脚と逆の手で杖をつくことにより、立ち脚にかかる負担を大きく減らすことができます。時々誤解して悪い側で杖を持つ人がいますが、これは正しくありませんので良く注意して欲しいと思います。美容上、社会生活上なかなか使いにくいと思いますが、疼痛が強い時にはお勧めです。
運動療法はストレッチや柔軟体操により鎮痛を得ることと、関節可動域訓練や筋力トレーニングによって、関節の運動性と安定性を獲得し、できれば除痛や関節機能の改善・保持を目標とすることに大別されます。 ストレッチや柔軟体操は、基本的に軽い体操であり、ほとんどの場合無害と考えられますから、可能であれば、どの関節症のステージでも行っていただくのが理想です。 一方関節可動域訓練や筋力トレーニングは、ずきずきする痛み(疼痛)を誘発する恐れがあり、充分管理された状況で行われることが望ましいものと思われます。個々人について、最適な運動の量と質を決定するのは大変困難な問題ですが、うまく行えればQOLの保持には必ず有用ですので、医療機関とよく相談して行ってください。 運動療法は予防と治療の両面がありますので、具体的な方法に関しては予防の項目で説明いたします。
2000年代になり、大腿骨寛骨臼インピンジメント(F A I)と呼ばれる病態が明らかになりました。大腿骨の骨頭と骨盤側の寛骨臼(臼蓋)の縁がぶつかることによって股関節の痛みが引き起こされ股関節が徐々に壊れていくというものです。寛骨臼の縁には、関節唇というクッションが付いていますが、これが骨から剥がれると激しく痛みを感じます。カメラでのぞきながら、骨に糸で再接着させることができるようになりました。またぶつかりにくいように骨のでっぱりを歯医者さんのように削り取るのです。これを1cm程度の皮膚切開を2−3箇所で行います。手術後はリハビリプログラムに沿って、スポーツや仕事への復帰を目指します。
整形外科において変形性関節症が着目されたのは、実は日本人の平均寿命が70歳を越えた昭和40年代になってからです。そしてその頃に種々の骨切り術(Chiari〔1953〕、西尾〔1956〕、田川〔1968〕)や、人工股関節手術〔1960ごろ〕が考案されました。
骨切り手術の目的は、以下の3点です。
関節の適合性は良いのですが被りが少し足りない場合、骨移植を行なって“屋根の継ぎ足し„ を行うことがあります。手術操作が少ないのが利点ですが、移植骨の骨癒合が悪いと大きな被りが得られないことが問題です。
1956年に九州大学の西尾名誉教授が始めた寛骨臼移動術にこの手術のアイディアの萌芽がみられますが、その後女子医大の田川教授が進入法と特殊なノミを工夫して寛骨臼回転骨切り術を開発しました。手術のポイントは股関節を中心に弧状の骨切りを行い回転させることで被りの改善を図ることです。生理的な関節の軟骨で荷重する面積の大幅な拡大が得られることが最大の長所となります。2000年代となり、股関節の前方から進入する低侵襲寛骨臼移動術であるCPO(curved periacetabular osteotomy)やSPO(spherical periacetabular osteotomy)といった手術方法が考案され行われていますが、その目的はRAOと同様です。
大腿骨頭がいびつであったり関節の適合性が不良な場合、寛骨臼回転骨切り術は適応になりません。そのような場合は図のようなキアリー手術が選択されることがあります。
手術では大腿骨頭の被りは改善されますが、自分の軟骨性臼蓋を移動するのではなく移動した新しい臼蓋と大腿骨骨頭との間の関節包を関節軟骨の代わりとして用います。この手術では関節が変形していても対処が可能です。
大腿骨頭壊死症で体重を支える部分に壊死を生じた場合、そのまま放置すると骨頭がつぶれて変形が進み、関節が修復不能になってしまうことがあります。そういう恐れがある場合には九州大学の杉岡名誉教授によって考案された大腿骨頭回転骨切り術を行ないます。この手術は、大腿骨頭を大腿骨頚部軸で回転させることによって荷重部(体重を支える部位)にあった壊死部を非荷重部に移動させます。荷重部に健常な軟骨面をもってくるわけです。高度の手術操作を要しますが、順調であれば自分の骨を温存することができます。
さまざまな原因で股関節が壊れてしまうと、この術式が適応となります。その対象疾患として、変形性股関節症、関節リウマチ、大腿骨頭壊死症などがあります。人工股関節は50年の歴史の中で、材料や形の工夫と改良が進み、より安全で安心な治療法となりました。国内の手術数も年々増加し2008年には4万件ほどでありましたが10年後には年間に7万件に達しています。現在では、手術を行うことで痛みのない日常だけではなくテニスやゴルフなどのスポーツ活動も楽しむことが可能となっています。
インプラントの材質は、ほとんどの機種でチタン合金が使われています。摺動面とよばれる関節の動く部分には壊れにくいセラミックやクロスリンクポリエチレンを用いることで低摩耗性を実現しています。耐久性は飛躍的に改善され、20年以上壊れることなく関節の機能を維持します。骨にインプラントを固定する方法として、骨セメントという接着剤のようなものを使う方法と使わない方法があります。骨セメントを使わない方法では、インプラント表面に特殊な加工を施すことで骨との固着を得ます。どちらの方法も、長期にわたりインプラントが緩むことなく骨との固着が維持されます。さらに、近年ではできる限り筋肉や腱を骨から外さないで手術を行う方法が工夫され、術後の関節の脱臼リスクも低減しています。