Hip Joint コラム

股関節に関する有識者の方々が、様々な切り口で股関節をコラム形式で解説します。

第36回 Hip Joint コラム 2018.09.01

ステロイド治療に伴う大腿骨頭壊死の発生予防を目指して

九州大学整形外科 本村悟朗 写真
本村悟朗
九州大学整形外科

 大腿骨頭壊死症という病気はとても悩ましい病気です。決して命をおびやかすものではありませんが、大腿骨頭がつぶれてしまうため股の付け根に強い痛みを引き起こし、歩行障害など日常生活に多大な支障をきたしてしまいます。大腿骨頭には体重がかかりますので、真ん丸だった骨頭は次第にでこぼこに変形し、痛みや関節の動きは必然的に悪化します。痛みを取り除きかつ機能的な股関節にするためには手術以外の方法はなく、実際に患者さんの多くは手術を希望されます。このように大変な病気なのですが、もっとも問題なのは、この病気の原因がわかっていないという点です。つまり、どのようにして骨頭に壊死が起こるのかは未だに不明なのです。 病気の原因は分かっていませんが、これまでの研究成果により、大腿骨頭壊死症とステロイド治療との間に関連があることが証明されています。ステロイドは全身性エリテマトーデスなどの膠原病や白血病などの血液疾患、また、湿疹や喘息、難聴など、実に多くの病気に使用されています。ステロイド治療をしたすべての患者さんに大腿骨頭壊死が起こるわけではありませんが、日本では大腿骨頭壊死症患者の約半数にステロイド治療歴があると言われています。このことからも、ステロイド治療に関連して発生する大腿骨頭壊死の発生を予防することには大変大きな意味があることが分かっていただけると思います。
 世界初の予防法開発を目指して、現在我々は先進医療として全国多施設で臨床研究を行なっています(https://www.hosp.kyushu-u.ac.jp/gairai/senshin/22/)。先進医療とは言っても、特別な薬を使うわけではありません。基礎研究で予防効果が認められた、抗血小板薬・抗高脂血症薬・抗酸化薬の既存薬3剤を初回ステロイド治療時に併用して大腿骨頭壊死の発生予防を目指すというものです。予防効果が認められれば、安全で安価な予防法の開発へとつながる重要な試験であり、まずは50症例の登録を目指しています(対象は全身性エリテマトーデスに対する初回ステロイド治療時に限定しています)。


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