股関節に関する有識者の方々が、様々な切り口で股関節をコラム形式で解説します。
1993年から3年半、アメリカ留学時に多くの著名な先生方の人工股関節、膝関節手術を見学した。どの施設でも手術は1時間程度で終わり(早いところでは30~40分)、術後の入院期間も1週間から10日であった。 ドクター1人あたりの年間手術件数は300~800件と多く、術後の成績にも問題がなかった。経験がものをいうことをまざまざと見せつけられた思いであった。日本では臼蓋形成不全が多く、人工関節手術の時に骨移植をする施設もあり、とても1時間以内で終わることは少なかった。骨切り手術も入院期間が長く、脚長補正も難しく、若い方々への適応も多く、病棟で主治医をし、自分が術者となってもなかなか納得のいく手術後に美しく回復した症例に出会うことはできないのが実情であった。
この3点をかなえることで満足した手術結果と共に快適な日常生活が送れるようになると考えてきたし、今後もその思いは変わらない。このため、現在の進行期から末期変形性股関節症に対する最適な手術は人工股関節置換術のみと考えている。自分の家族、そしてもし自分がそのような病態に陥ったとすれば迷いなくこの手術を勧める。
日本の医療保険制度もかなり疲弊し、税金補てんによる赤字垂れ流し病院は問題で今後10年以内にそういった病院はなくなることが予測される。また、医療保険財源が枯渇する中、保険者よる行政指導の名のもとにあからさまに医療に必要な部分までも削除して病院に負担を強いることが続けば医療の質の確保は怪しくなる。 そこで、湘南鎌倉人工関節センターでは開院以来13年間長期入院を悪(合併症増加と医療費の無駄遣い)と捉え、早期退院早期社会復帰に尽力してきた。現在は術後5日で自宅退院が95%、3日で退院が90%の成功率を収めている。本邦の人工関節置換術後の平均在院日数は1か月を超えるため、これは画期的なことである。来年からは海外でも病院全体の30%程度行われている日帰り手術を導入すべく、日本版プロトコールが完成したところである。これをもとに、患者の希望する患者のための早期退院、早期社会復帰が在院日数選択もできることで術後合併症の低減とともに医療費削減に貢献できれば幸いと考えている。