股関節に関する有識者の方々が、様々な切り口で股関節をコラム形式で解説します。
体調を崩して慈恵医大病院に入院した父・伊丹康人を、気分転換に車椅子で散歩に連れ出し、現役時代に自室のあった旧研究棟を回ったことがあります。病棟から近い入り口から入りすぐ左側に目を向けると、「ここに先天性股関節脱臼の研究室があって、患者さんも出入りして色々と研究をしたものだ。」と話してくれました。慈恵医大整形外科教室に入局した当初に取り組んだ研究だったというのです。疾患が克服できて活動が低下するのは勿論喜ばしいことですが、当時、先天性股関節脱臼の診療と研究で活況を呈して現在は静かなその一角を見て、何が心に去来したのでしょう。来し方を偲ぶ風情でした。
研究生活の第一歩が小児の先天性股関節脱臼であったとすると、その後の骨関節結核、骨移植、股関節研究、骨粗鬆症、むち打ち症などへと続き、ライフワークとして、各大学整形外科の先生方と股関節学会設立に尽くし更に股関節研究振興財団設立へと続く流れの端緒だったようにも思えました。
そんな時に、当コラムで慈恵医大の大谷卓也先生が執筆された「赤ちゃんの股関節脱臼」に目が留まりました。それによると、1970年代に一旦下火になったが、現在は国内で年間に100人以上の脱臼が、歩行開始後まで発見できていないことが判明している。生まれつき股関節の作りが不十分で、成長、加齢と共に徐々に障害があらわれて成人股関節障害の原因となる、とのことで早期発見の重要性をあげておられます。
また、平成24年度助成金交付を受けて新潟大学の村上玲子先生は早期発見について、その方法論や発見の難しさそして今後の課題を考察されています。市民フォーラムで取り上げたテーマでもあります。
つまり、赤ちゃんの股関節脱臼の対処が将来の股関節の障害を方向付けると言っても過言ではないのです。最近の統計によると人生100年の時代になりつつある昨今です。100年の長きにわたり「いつまでも元気で歩く」為には身体を支えて歩く基本となる股関節回りと整え、とりわけ乳児の時に将来のリスクを下げておくことも大切です。股関節の不調があるままに人生を歩み始めることのないように、早期発見と適切な治療がされることを切に願っています。その為の市民に対する啓発活動も財団の使命の一つと思った次第です。