Hip Joint コラム

股関節に関する有識者の方々が、様々な切り口で股関節をコラム形式で解説します。

  
第22回 Hip Joint コラム 2017.07.01

「人工関節置換術の適齢期は?」

進藤裕幸先生 写真 画像

進藤 裕幸
長崎大学名誉教授

 昨今の人口の超高齢化に伴って、関節の変性疾患である変形性関節症が増加の一途を辿っている。その代表例が膝関節と股関節である。両疾患ともに最も代表的な治療法として人工関節置換術が広く行われて良好な成績を提供している。 
 約10年前から日本整形外科学会:インプラント委員会の主導で人工股関節(THA:Total Hip Arthroplasty )と人工膝関節(TKA:Total Knee Arthroplasty )の手術症例の登録制度の設立への努力がなされている。 世界の場ではスエーデンが先導的に四半世紀も前から全症例の登録制度を国家的プロジェクトとして実施しており、種々の貴重なデータを年次公表しており、人工関節の機種や手術術式の不都合や問題点をいち早く検出し実臨床にfeedback が可能となり大変有益な制度である。 しかし各種データの収集にはそれなりの手間・暇がかかるので、人口数の大きい国では全例登録は相応の予算措置を必要とするため長い間北欧諸国に留まっていたが、近年英国やオーストラリアと2500万以上の人口を有する国でも制度化が確立してきた。 我が国では厚労省にあっては予算措置を要する新案件には全く興味を示すこともなく、現在では日本人工関節学会の主導で人工股関節と人工膝関節において登録制度の普遍化が計られている。 しかし強制力を伴わない現状では整形外科医の自主性に委ねざるを得ないために全症例の登録には遠く及んでいないのが現状である。
 さて冒頭の「人工関節手術の適齢期は?」であるが、勿論、年齢は重要な参考因子ではあるが、手術の適応決定は個々の患者さんの年齢・性別、症状、特に疼痛の程度、日常生活動作(ADL)への障害の程度、近未来における生活の質(Quality of Life)の設定、が重要要素である。その上で診察所見や画像診断などの主要所見を総合的に評価して決定される。 
 日本人工関節学会レジストリー(2016版)によると、THAでは全40,726例のうち、50歳代25%、60歳代:32%、70歳代:27%、80歳代:7%、40歳代以下:8%、 TKAでは、全66,502のうち、70歳代:50%、80歳代:25%、60歳代:20%、50歳代:4%、40歳代:0.5%, であり、THAがTKAよりも、one decade :10 歳程度若い年齢層にピークがあることが明らかになった。 さてその理由は何か? 種々の要因が考えられるが、総じて患者さんの手術結果に対する満足度がTHAの方がTKAに比べて高いことが適応年齢をより若くしていると考えられる。即ち股関節のほうが膝関節よりも満足度が高いことが明らかにされている。同時に生体解剖学、生態力学、生体工学等の科学的分析の根拠からもTHAに軍配が上がることになる。 従って10年以上も古い歴史を有するTHAがTKAに比べてより安定した人工関節であると言えよう。

人工関節置換術の年齢分布の表 画像


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