股関節に関する有識者の方々が、様々な切り口で股関節をコラム形式で解説します。
1960年代にイギリスの John Charnley(ジョン チャンレイ)先生により開発された人工股関節はポリエチレン製の臼蓋カップと金属製大腿ステムを骨セメントを使用して骨に固定するもので、従来の方法に比べ格段の好成績をおさめました。このCharnley先生のアイデアは改良を重ね、今なお全世界に広く使用されています。 同年代に対岸のフランスでは Robert Judet(ロベール ジュデー)先生が骨セメントを使用しないで骨に固定する人工股関節を開発していました。いわゆるセメントレス人工股関節です。これは骨と接する面の金属表面を加工することにより金属表面に骨新生を生じ骨癒合を促すものであります。その後金属材質、表面加工、デザインの改良によりセメントレス人工股関節も世界で広く使われています。 私はセメントレス人工股関節が開発使用されている初期にフランスに留学し(1977?1979)、Judet先生のお弟子さんのGerald Lord(ジェラール ロード)先生の元でセメントレス人工股関節を学びました。Lord式人工股関節は、ネジ込み式臼蓋カップと表面を細かいビーズ状に加工した大腿ステムを特徴としています。今から約40年前の当時、そのデザインのユニークさに驚かされ、フランス人の発想の豊かさに感動したのを覚えています。 その当時日本でも、当財団の創始者である伊丹先生が世界に先駆けてセメントレス人工股関節を開発されていたことはまさに驚愕であります。 現在のセメントレス人工股関節は、臼蓋カップはドーム型で大腿ステムはより短く大腿骨髄腔に適合するデザインが主流です、表面加工もハイドロキシアパタイト処理が施されるなど各方面で改良がなされています。関節摺動面もポリエチレンの改良やセラミックの使用により長期に安定した成績が得られるようになって来ました。 人工股関節の寿命はセメント、セメントレスに関わらず良くて10年から15年と言われて来ましたが、現在は20年から30年以上も期待出来る時代になっています。人工股関節自体はこのように改良が進み耐久性が向上して来ていますがそれを支える患者さん自身の骨の質が問題です、骨の老化すなわち骨粗鬆症の研究も近年進んでいますが人工股関節を一生涯保持出来るとは限りません。再手術の可能性もあることを考慮し、あくまでも人工股関節は最終手段であることを忘れないようにしましょう。