Hip Joint コラム

股関節に関する有識者の方々が、様々な切り口で股関節をコラム形式で解説します。

  
第13回 Hip Joint コラム 2016.10.01

「人生いろいろ、手術もいろいろ」

帖佐悦男先生 写真 画像
内藤 正俊
国際医療福祉大学 教授
福岡山王病院関節外科 センター長

 人生が多様化しています。高度成長期までは物質的な豊かさを求める会社中心の横並びの生活が一般的でしたが、1980年頃を境に「レジャー・余暇生活」に重点を置いた個性的な人生を望む人の割合の方が多くなりました。消費に対する価値観も拡がっており、「モノの消費」だけでなく、スポーツへの参加や旅行などの体験による心や体の充足を求める「コトの消費」も増えてきています。寿命も右肩上がりで延びています。私が生まれた1950年の女性と男性の平均寿命はそれぞれ61.5年、58.0年でしたが、2014年は86.3年と80.5年になっています。一方、世帯規模は縮小し、三世代同居から核家族化しています。現在、家族形態で最も多いのは単独世帯になりました。充実した多様な人生を享受し、天寿を全うする間際まで自助できる移動能力の保持が大切な時代になりました。
 股関節手術も多様化し、近年の開発には目を見張るものがあります。特に人工股関節置換術の飛躍的発展と普及は際立っており、劇的な歩行能力の改善と疼痛の軽減が得られるようになりました。インプラントの材質や性能が進化するとともに手術操作のための道具も日進月歩で改良されています。20世紀末までの傷の長さは20cmほどでしたが、現在では10cm前後が普通になっています。整形外科手術の中で最も成功している代表的な治療法になっています。惜しむらくは主に欧米で開発されたため西洋生活様式を基本にデザインされていることです。このためしゃがみこむ動作では脱臼を起こす危険性があり、手術後の和式トイレの使用は不可能です。人工関節置換術とは異なり自骨を用いる関節温存手術にも創意工夫が加えられてきています。骨切り術も人工股関節置換術と同じ10cm前後の傷での負担の少ない手術が可能になっています。変形が少ない時期に手術を受けると我が国特有の正座でのお辞儀や屈んでお風呂に入る動作に支障がなく(図1、2)、故郷への冠婚葬祭や温泉旅行に気兼ねなく出かけることができます。骨切り術の欠点は術後のリハビリが長いことです。最近では1cm弱の数か所の傷で行える股関節鏡視下手術が導入され、入院期間や術後のリハビリが短縮しています。
 人生“いろいろ”、手術も“いろいろ”となり、移動能力の要となる股関節機能を蘇らせるための手術方法をライフスタイルに合わせて選択することができるようになっています。

術前60歳HHS75, JOA77 画像

図1:座礼が必要な日本料理店にお勤めの60歳女性の術前レントゲン写真。
正常を100点とした日本整形外科学会股関節機能評価点数は77点であった。

術後10年70歳HHS98JOA96 画像

図2:寛骨臼回転骨切り術(CPO)後10年の70歳女性のレントゲン写真。
日本整形外科学会股関節機能評価点数は96点である。


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